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エコ森林通信 vol.37 野鳥の雛について

自然環境部 陸域担当チーム
福島 想

 

●誤認保護問題

 鳥類の繁殖期は多くが4月から始まり、長いもので8月まで及びます。なかでも今時期は、多くの種・個体の育雛期にあたり、雛は警戒心が弱いため人前に姿を現すことがあるでしょう。孵ったばかりの雛のあどけない様子は愛くるしく、人目を惹き付けるものがあります。そこで、近年ニュースやSNSでも取り上げられているのが、雛の誤認保護による親鳥との離別問題です。

 巣立ち直後の雛は飛べなかったり歩けなかったりして、地上で動かずにいることがありますが、多くの場合は近くで親鳥が見守っています。これを「迷子なのでは」「怪我をしているでは」と案じ保護した結果、親鳥と逸れさせてしまうことがあります。このような行為を誤認保護と呼びます。また、中には愛玩目的で捕獲しようと考える人も少なくありません。そうして人に育てられた雛は、索餌能力や飛翔能力が乏しく、のちに自然に返しても生存できない可能性が考えられます 。

 他方で、鳥獣保護法【1】により、環境大臣もしくは都道府県知事の許可なく野鳥を捕獲することは禁じられています(狩猟や農林業による捕獲は該当しない)。たとえ救護目的の保護であっても、違法捕獲と誤認されないよう必ず担当機関へ連絡する必要があります。飼養については国内の全鳥種で禁止されており、保護した野鳥を飼うことはできません。各都道府県では、雛を見つけた際は「そのままにしておく」ことを原則としていますが、道路上で発見した場合や、傷病個体で緊急を要する場合もあるかと思います。その際は、近くの安全な場所に移動する、本法に則り担当機関に連絡する等、適切に対応する必要があります。

 誤認保護に対して傷病鳥獣救護は、生物多様性の保全に貢献することを目的とし、環境省によって推進されています【2】。ただし、その活動を通して環境教育や環境モニタリング、調査研究、予防対策において有益性が示されている一方で、厳しい財政状況により傷病鳥獣救護にかけられる予算が少ないことから、保護対象であっても受け入れられない場合があります。また、自治体によっては、カラスやドバト等の有害捕獲の対象となる鳥類や外来種については保護対象となりません。傷病鳥獣救護の考え方として、傷病鳥獣を保護すること自体が生態系構成員である生物を収奪している(自然に斃死した場合、食物の役割を担う) といった観点もあり【3】、本活動には良し悪しがあるようです。

 雛の誤認保護を防止するには、上記法規制について知っておく必要があり、多くの人が認識するには普及啓発が欠かせません。各地方自治体のウェブサイトでは、ヒナを見つけた際の対処法が掲載されており、リーフレットを公開している自治体もあります。日本野鳥の会は30年以上に渡り「野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーン」を実施しており、啓発ポスターの掲示を推進しています。自由にダウンロードして印刷できるので、公園や地域掲示板、学校などで活用いただけます【4】。また、鳥獣保護センターや動物病院での引き取りや診療時の積極的な普及啓発も求められており、関係者は救護者への交渉力や解説力を問われています。

 そのほか、誤認保護は雛を対象に発生するため、救護者が予め雛の特徴を知っておくと、救護対象の判断材料となり得ます。鳥の雛は、次に列記した特徴を持つ傾向があります。

・成鳥と比較して体サイズが小さい
・成鳥と比較して色彩が全体的に鈍い又は薄い
・背面の羽毛に縁取られた模様(羽縁)がある
・白く細い縮れ毛(幼綿羽)が残ることがある
・警戒心が弱く人が近づいても逃げないことが多い 等

 上記特徴に該当しなくても、傷病鳥であるかは外科的な負傷でないと一般には判断しかねますので、「地上で身動きをとらない」だけで怪我をしていると判断せずに、その他の可能性を十分に思慮する必要があります。

 


イソヒヨドリの雛※弊社撮影素材

●自然に対する考え方

 私たちは生活を営む上で生態系について理解を深めることが不可欠です。野生鳥獣の生死は生態系(食物連鎖)の事象であり、人が介在しなくても自然に循環していくものです。また、生態系は絶妙なバランスで保たれており、その構成要素は非常に複雑であることから、動態を予測することが難しいため、必要以上に人が干渉するべきではありません。自然の摂理を尊重しようという思想です。先に述べた「そのままにしておく」原則は、この概念が根底にあります。

 ただし、本件の契機は人の善意であることから、拾ってはいけないことに疑念を抱く人も少なからずいるでしょう。しかし野生生物を尊重するならなおのこと、生態系の仕組みや法規制を踏まえたうえで慎重に行動するべきなのです。本記事では鳥の雛を題材としましたが、その他の生物においても人との軋轢は様々で、倫理観の齟齬による問題(過度な生物採集、写真撮影による繁殖阻害、外来種の飼育放棄、野生生物への餌やり)は少なくありません。私たちは「自身が思う環境保全」を行動に移す前に、正しい情報を取り入れ、従来の自然に対する観念を今一度見直す必要があるのではないでしょうか。

 

【1】鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC0000000088

【2】行政における傷病鳥獣救護の考え方と地域の取り組み事例
https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort13/jirei.pdf

【3】全国の傷病鳥獣救護状況調査及びその課題の検討 
https://jvma-vet.jp/mag/06410/a4.pdf

【4】 公益財団法人日本野鳥の会 野鳥の子育て応援キャンペーン
https://www.wbsj.org/activity/spread-and-education/hina-can/

 

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