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エコ森林通信 vol.31

高病原性鳥インフルエンザの感染拡大を防げ(後編)

自然環境部 陸域担当チーム
福島 想

 

 さて、前号では鳥インフルエンザの概要、及び我が国の鳥インフルエンザサーベイランス(以降、サーベイランス)の仕組みについてご紹介しました。

 今回はもう少し掘り下げて、まず、サーベイランスの取り組み状況及び問題点を紹介し、次にそれらの特性を踏まえたHPAI(高病原性鳥インフルエンザ)の流行対策における今後の課題に触れていきます。

 

◆サーベイランスの取り組み状況及び問題点

 2008年から実施されている環境省サーベイランスですが、本取組により家禽や飼養鳥よりも早く野鳥からHPAIウイルスを発見できたのは、2017年度の1シーズンに留まっており、その他の先行発見事例は大学等の研究機関によるものです。また、大学等研究機関による糞便及び環境水の調査では、死亡鳥や衰弱鳥より早くHPAIウイルスが検出されているのに対し、環境省サーベイランスによる糞便採取調査ではHPAIウイルスの検出例が少なく、早期に発見できていない状況にあります。

 このように、サーベイランスが有効に活用できていない要因としては、検査優先種の限定や検査基準(前号でご紹介)による感染野鳥数の過小評価が考えられます。感染リスクが高いとされるカモ類等水鳥の全種が、最も厳しい基準である「検査優先種1」に網羅されているわけではないため、今後はカテゴリーもしくは検査指標となる死亡個体数を改訂することが望ましいと考えます。

 環境省サーベイランスによる糞便採取調査は、調査回数が「毎年各地域の飛来初期に当たる時期(10月~12月)に1回以上」とされており、各都道府県によって努力量が異なることが課題と言えるでしょう。加えて、専門家ではない職員が実施していることが多いことから、検査に適した採取・保存方法を講習会等で学ぶ機会を設け、各々が専門性を高める必要があります。

 

◆ HPAIの流行対策の今後の課題

 渡り鳥は全国各地へ一斉飛来することから、HPAIが同時多発的に各地で発生する傾向があることを考慮して、それら水鳥の飛来時期には感染事例の有無に関わらず、早い段階で広域的な監視を強化するべきでしょう。これにはアクティブサーベイランス(前稿でご紹介)である鳥類生息状況等調査や糞便採取調査に係る人手を充足させるため、都道府県職員だけでなく民間に及ぶ各関係機関等との協力が求められます。例えば、NPO法人バードリサーチでは民間参加型の調査を数多く実施しており、鳥類愛好家が気軽に調査に参加できる体制をとっています。環境省が主導する渡り鳥飛来状況調査等においても同様の体制を構築できれば、人手不足によるサーベイランス規模の縮小を解消できると考えます。

 なお、野鳥のサーベイランスは、家禽のHPAIの流行対策のほかに、希少鳥類を保護する観点でも重要です。例えば特別天然記念物であるタンチョウは、保護増殖を目的として釧路地方を中心に給餌活動が行われていますが、局地的に個体数が増加することにより、HPAI等の感染症が当該生息地に持ち込まれた際の影響が懸念されています。従って、希少鳥類の生息地を把握するほか感染状況をモニタリングするためにも、鳥類生息状況等調査などのアクティブサーベイランスを早期に徹底する必要があります。

 以上のように、従来のサーベイランスをより効果的にHPAIの早期発見につなげるには、各関係機関や専門家が民間と協力していく必要があり、サーベイランスの手法特性を踏まえたうえで改善点を明確にすることが不可欠です。

 弊社では自然環境を主とした様々な調査(業務紹介)を承っております。各専門分野の調査員による現地調査から、調査データの解析までお手伝いさせていただきます。今回題材に掲げました環境省サーベイランスである鳥類生息状況等調査など、私どもにお力添えできることがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

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