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エコ森林通信 vol.24

野生動物の落とし物

自然環境部 陸域担当チーム
山下 純平

 9月に入り、暑く厳しかった夏が終わり、皆さんも活動しやすい日が増えてきたのではないでしょうか?それは、野生動物たちにとっても同じです。動物たちは、これからの季節、寒く厳しい冬を迎えるために、地中に木の実を埋めたり、餌をたくさん食べて体に脂肪として蓄えたりして備えます。このため、動物たちは秋に行動が活発になりますが、警戒心が強いために、私たちが姿を目にすることは稀です。そこで、今回のエコ森林通信は、動物たちが残す痕跡をいくつか紹介します。身近にいてもなかなか姿を現さない野生動物ですが、フィールドサインと呼ばれる糞や爪痕などの痕跡で、野生動物の存在や生活を伺い知ることができます。

 まず、紹介するのはタヌキの糞です。タヌキは同じ場所に複数の個体が何回も糞をする習性があり、集まった糞を溜糞(ためふん) (写真1)と呼びます。タヌキの溜糞は、家族や隣接個体の確認や相互許容の機能などの情報交換のツールとして利用されます[1]。溜糞は多数の糞が1箇所に集まるため、大きなヒグマの糞と間違えられることがあります[2]。見分ける方法は、糞一つ一つの大きさの違いです。何分ヒグマは身体が大きいので、糞も大きくなります。また、木の棒などで糞を突いて匂いを嗅いでみてください。タヌキの糞は、何とも言い表せない臭い匂いがします。


   写真1 タヌキの溜糞            写真2 ヒグマの糞


 次に、ヒグマの糞(写真2)を紹介します。ヒグマの糞を木の棒などを使ってほぐすと、中からドングリやクルミの硬い皮やヤマブドウ、コクワ(サルナシ)などの木の実が出てきます。ヒグマは消化能力が弱いため、食べたものの形が残った状態で出てくることが多く、何を食べていたのかが分かります。

 

 続いては、ヒグマの爪痕(写真3)です。ヒグマが、ヤマブドウなどの木の実を食べるために木に登った際につきます。ヒグマの爪痕に似ているものに、エゾシカの角研ぎ跡(写真4)があります。見分ける方法は、ヒグマの爪痕は指の幅に合わせて平行なラインが入るのに対して、エゾシカの角研ぎ跡は乱雑に斜めや縦のラインが入ります。シカの角は毎年生え代わり、春に前年の角が抜け落ちます。生え始めの角は袋角と呼ばれ、袋状の皮の内部に血管や神経が走り、柔らかい状態です。夏から秋になると角の成長が終わり、皮が剥げ落ちて硬化します。この時期に、シカは木の幹に角を激しくこすりつけて磨きます。この行動を角研ぎと言います[3]。


   写真3 ヒグマの爪痕            写真4 エゾシカの角研ぎ跡 

 このように、森や林で道端に目を向けると、そこに暮らす動物たちの落とし物(痕跡)を見つけることができます。上を向いて歩こうとよく言われますが、たまには下を向いて野生動物の存在を感じながら歩くのもいいかもしれませんね。涼しくなってきたこのタイミング、散歩などして身近に潜む野生動物たちの存在を感じ、自然に触れるのはいかがでしょうか。

[1]小泉ほか(2017) 東京都心部の赤坂御用地におけるタヌキのタメフン場における個体間関係,フィールドサイエンス 15:7-13
[2] 札幌市ホームページ ヒグマについて知ろう 痕跡の見分け方 https:// www.city.sapporo.jp/kurashi/animal/choju/kuma/konseki/index.html
[3]高槻成紀(1989) 植物および群落に及ぼすシカの影響,日本生態学会誌 39:67-80
[4] 札幌市ホームページ ヒグマ対策 野外活動での注意点 https://www.city.sapporo.jp/kurashi/animal/choju/kuma/yagai.html 

 

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