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エコニュースVol.212

2011年02月01日

<生物多様性シリーズ Part9>

美しい姿に騙されるな!!

株式会社エコニクス
環境事業部 陸域環境チーム 神 昌行

 植物の調査でフィールドを歩いていると、出会う人からよく「採れますか?(山菜採りと間違われている)」や「きれいな花を見ることができて楽しいでしょう」と言われます。確かに、美味しい山の幸や、美しい花、珍しい植物などに出会えた時には、この仕事をやっていて本当に良かったと思います。しかし、決して楽しいことばかりではありません。思いもよらない光景に気が滅入ることもしばしばです。
 ここで、皆さんに1つ質問です。下に示したAとBの写真を見て、どちらの景色に癒されますか?

 
写真A                      写真B

 多くの方が写真Aを選んだのではないでしょうか。美しい花が咲き誇るお花畑・・・騙されてはいませんか?
 それでは、この写真を撮った背景について少しご説明したいと思います。
 これらの写真はいずれも、数年前、忠別川の河原で撮影したものです。忠別川は、大雪山系を源流に持ち、上川盆地南部を流域とする石狩川水系の一級河川です。
 写真Aに写っている紫色の綺麗な花は『ルピナス(異名:ノボリフジ、タヨウハウチワマメなど)』です。北海道に生育・生息する外来種リスト『北海道ブルーリスト2010』によると、本種は北アメリカ原産のマメ科の多年草で、わが国には戦後、園芸植物として導入された『外来種』となっています。写真のような紫色の花のほか、ピンクや白など花の色は様々で、今日でも公園や庭の花壇に植えられているのをよく目にします。この『ルピナス』ですが、なぜ忠別川の河原にこのように群生しているのでしょうか。恐らく、近隣の住宅で栽培されていた『ルピナス』の種子が雨に流され、忠別川の河原にたどり着いたとものと考えられます。加えて、『ルピナス』をはじめとするマメ科植物の多くは、根粒菌というバクテリアと共生関係にあり、植物の生育に必須な窒素分の一部を、根粒菌が固定した空気中の窒素から得ています。すなわち、砂礫質で土壌養分の乏しい忠別川の河原は、『ルピナス』にとって競争相手が少ない格好の生育環境だったことも、要因の一つであったと考えられます。
 一方、写真Bに白っぽく写っている植物は『カワラハハコ』といい、忠別川の河原のように適度に撹乱を受ける環境を好むキク科の多年草(在来種)です。日本全国に分布しており、北海道では比較的普通に見られますが、都道府県が発行するレッドデータブックなどによると、関東以西では絶滅危惧種に指定されている地域もあるそうです。主な減少の要因としては、河川改修などによる生育環境の変化が挙げられますが、そのほかに、法面緑化や砂防用に導入されたシナダレスズメガヤというイネ科の外来種による影響が指摘されています。
 それでは、忠別川における『カワラハハコ』の状況はどうでしょうか?以下に示す写真は、今まさに、『カワラハハコ』の群落(奥に白く見える)が『ルピナス』(手前)に飲み込まれようとしているところを写したものです。そして、このような状況は、忠別川に限らず道内の河川の至る所で起きようとしているのです。『綺麗だからいいっしょ』なんてのん気な事は言っていられないのです。

 さて、最後にもう一度同じ質問をします。あなたは、AとBの写真を見て、どちらの景色に癒されますか?
 今回のエコニュースをご覧になった、一人でも多くの方が写真Bを選んでいただくことを、そして何より、『カワラハハコ』の姿がいつまでも見られる豊かな自然環境が残されていくことを心から願っております。

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