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エコニュースVol.324

2020年06月01日

海面利用制度等ガイドラインと規制改革推進会議提言から予想されること

株式会社エコニクス 環境事業部
海域環境チーム 技術顧問 松永 靖

 

 水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させる目的で、2018(平成30)年12月に漁業法が約70年ぶりに改正されました。これを実際に運用するための政省令を今後交付するのと同時に、管理運営を任される都道府県に対して、国の考え方や留意点等を示す予定となっています。農水省で考え方等をまとめたものが「海面利用制度等のガイドライン案」であり、そのガイドライン案のパブリックコメントが2020年4月11日に締め切られました。

 パブリックコメント実施中の4月9日に、内閣府所管の規制改革推進会議では、「水産改革に関する提言」をまとめ、農水省ガイドライン案にこの提言内容を盛り込むよう求めています。同じ国の組織同士で、農水省と内閣府は互いに何を目指しているのか、そして今後どのようなことが予想されるか考えてみます。

 

 そもそも漁業法の改正目的は、資源管理の推進と水産業の「成長産業化」を進めるためです。この「成長産業化」とはどのようなことでしょうか。

経済政策には、所得再配分と効率的な資源配分の二つがあります。前者はパイの分配、後者はパイそのものを拡大することが目的の政策です。パイの拡大政策は、利益を得た人が、損失を受けた人に補償したとしても、社会全体でおつりが残るなら資源配分は効率的で、長期的に見て国は成長するという経済理論になります。また、政府が口を出さなくても市場にまかせておけば効率的な資源配分が達成できるという厚生経済学の基本原理に従うことでもあります。このパイの拡大政策を進める条件は、誰でも自由に市場に参入し競争できることです(イコールフィッティング)。その中で政府の役割は、誰でも自由に市場に参入し競争できるようにすることと、競争に負けた者に対し生活保護をすることだけになります。

 わが国では、これまで経済の主役であった製造業が海外に拠点を移し、中国等の発展に伴い我が国の製造業が弱まり、製造業に代わり農林水産物による輸出促進政策が言われるようになりました。この輸出促進政策が、パイの拡大政策、すなわち「成長産業化」となります。このパイの拡大政策を進めるには、誰でも自由に農林水産業に参入できるようにする必要があるという流れになります。10年以上前の規制改革会議で農林水産業の成長産業化を図っていくと提言が出され、それ以降、農林水産業の参入自由化の議論が様々な場面で活発に続けられています。

 

 漁業法の改正は、マグロなどの資源減少が進む水産資源の資源管理に注目が集まっていますが、改正の本質は、漁業への参入自由化(イコールフィッティング)です。協同の精神で水産資源や海域環境を守っているのは漁業者であり、無制限の参入自由化では海域環境や資源、漁村文化は守れないとする考えと、民間企業含め誰でも自由に参入できるようにして、漁獲数量管理による資源管理をしながら、あとは自由競争にして、経済効率化した強いものだけが生き残るようにした方が水産業は発展するという考えが対峙している構図をイメージするとわかりやすいと思います。

 

 次に、農水省のガイドライン案に対して規制改革推進会議は、具体的に何を提言し、ガイドラインに盛り込もうとしているかを見てみます。

 改正漁業法では、それまでの既得権者や漁協、漁業者法人に優先して許可した優先順位規定を撤廃し、漁場を「適切かつ有効」に活用している漁業者の利用を確保することを優先しつつも、協業や地域内外からの参入も含め、水面の総合的利用を図っていくとしました。

 改正漁業法では、都道府県が漁場を「適切かつ有効」に利用していないと判断したときは、指導または勧告することになっています。ガイドライン案では、指導または勧告が行われなかった場合や指導勧告後改善がなされた場合は、漁場が「適切かつ有効」に利用されているとする内容となっています。

 これに対して、規制改革推進会議は、都道府県の指導または勧告が行われなかった場合、直ちに漁場が「適切かつ有効」に利用されているわけではないとして、都道府県担当者の裁量に任せるのではなく、より客観的に判断するよう求めています。その中には、例えば、養殖や操業期間のうち2/3以上の期間を実際に利用したかどうかや、生産目標量を記載した事業計画に対して自ら事業評価するなどの項目も例示としており、資源管理関係と合わせて農水省パブリックコメント案に対する具体的提言として意見しています。

 

 どのような形で決着するかわかりませんが、規制改革推進会議は、漁協や関係団体、さらに都道府県に対して厳しい目を向けています。今後、資源管理のための漁獲情報だけでなく、漁場を具体的にどう利用し管理しているかなど、これまで以上、様々な情報の迅速開示を求めてくると考えられます。

このため、漁協等においても事務のオンライン化、地図情報と合わせた漁獲や漁場利用の状況などの集計自動化など、事務の電子化、効率化を早急に進め対応していく必要がありそうです。

弊社では、水温塩分などの海洋観察、海中をリアルタイムで観測するシステム、漁場図作成、魚類、海藻、プランクトンなど水産生物全般の調査など電子データをもとに、様々なデータを結びつけ整理解析している実績があり、漁協が事務の効率化を検討する場合に、具体的な提案ができますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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