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エコニュースVol.325

2020年07月01日

北海道におけるこれからの魚類養殖について

株式会社エコニクス 環境事業部
海域環境チーム 技術顧問 松永 靖

 

 世界の水産養殖業は近年著しく発展しており、2015年には養殖生産量が天然物の漁獲量を上回りました。しかし、日本の養殖業はこの20年間、ほぼ停滞しています。水産庁は養殖業の成長産業化を進めるため、今年になってから養殖の戦略や方針を発表しています。これから北海道の魚類養殖を考える上で、大変興味深い資料が多いのでご紹介します。

 

 北海道では、ホタテやカキ、コンブなど無給餌養殖が多く行われています。飼料にコストがかからないというメリットはありますが、生産が海洋環境の変化に左右されるという危険性があります。そのため生産が確実なサケマス類などの魚類養殖に注目が集まっていますが、種苗や飼料等に大きなコストがかかるという課題があります。

 水産庁の養殖業成長産業化総合戦略(素案)の参考資料2「我が国の養殖業と成長産業化の論点整理(未定稿)(2020年3月10日版)」に、日本のブリとノルウェーのアトランティックサーモンの養殖コストが記載されています。ブリは増肉係数2.8で、生産コストは696円/kg、アトランティックサーモンは増肉係数1.2で生産コストは356円/kgとなっています。

 

 

 ノルウェーの生産コストは、過去に北海道で実施したサケマス養殖の10分の1以下です。これは、ノルウェーのサケマス養殖が、同業者との水平統合、種苗生産や加工などの企業との垂直統合が進み、サケマス生産量の80%以上が、たった20経営体で行われていることと関係しているようです。

 増肉係数は、1kg増重させるのに何キロの飼料が必要かの係数です。飼料の値段は魚粉の原料となるイワシなどの漁獲量で大きく変動します。飼料の魚粉割合は、養殖する魚種によって異なり、ノルウェーのサケ類養殖用飼料の場合、全体の15から20%程度です。半分以上は植物由来のタンパクや澱粉で構成されています。サケマス類養殖では植物由来のタンパクを多くしても障害が出ないので、生産コストを下げるには、飼料の価格、目標出荷重量、目標肉質、飼育期間、水温、成長量などの要素を見て、コストを最小限とするよう、都度、飼料組成を変えていく必要があります。

 ただ、ノルウェーの生産コストを日本で実現するのは、生産規模から考え難しい状況にあります。このため日本ではマーケット・イン型養殖業を目指しつつ、地域に合った魚種の選定や品質向上などで、値段に見合った付加価値やスペシャル感を出していく必要があります。

 

 養殖を続けるには運転資金が必要です。このため2020年4月に水産庁では、資金を提供する金融機関が養殖業の事業特性を理解し、その経営体の将来を見据えた事業性を評価することによって、養殖経営体の成長促進、資金調達、外部からの技術導入等につなげ、金融機関が地域養殖業の成長産業化とアドバイザー(目利き人)となることを期待する「養殖業事業性評価ガイドライン」を発表しました。

 養殖経営体は、餌・種苗等、加工、流通、販売、物流等の各段階が連携や連結しながら、それぞれの強みや弱みを補い合って、養殖全体でのバリューチェーンにより付加価値を向上させ、その仲立ちを金融機関にしてもらうということになります。

 さらに、養殖経営体には、外部資金や技術提供先の違いで、様々な経営方法があり、その中で各県から問い合わせが多い養殖の生産委託に対する、漁業法上の解釈も同時に発表されています。

 許可を受けた養殖漁業者が、飼料業者、水産加工業者等から資金提供や飼料、種苗、資材、技術提供など現物供給を受けて、提供業者から生産委託される形で養殖生産し、その提供業者に資金返済または養殖生産物で物納返済しても、漁業法上問題ないとの内容になっています。

 

 道内でもこれから各地域で魚類養殖が活発に行われる可能性があります。これから魚類養殖を実施するには、水産庁の各種資料にあるように、資金、種苗や飼料、施設、加工、技術指導等多くの業態と連携するとともに、種苗生産業者や水産加工業者などから生産委託されて養殖に取組むことが、一番安全で確実な方法だと考えられます。

 

 弊社では、漁業や海洋に関する様々な相談に対応でき、様々な情報をもとにどのような解決方法があるかコンサル業務ができますので、地域で何かを取り組もうと考えている場合には、お気軽にお問合せ下さい。

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