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エコニュースVol.323

2020年05月01日

過去のサクラマス海面養殖の失敗に学ぶ

株式会社エコニクス 環境事業部
海域環境チーム 技術顧問 松永 靖

 

 道内のサケマス海面養殖は、平成初頭に衰退しました。しかし、最近、水産業の成長産業化施策の中で養殖は話題であり、全国的にサケマス養殖が再注目されています。

 

 過去に道内日本海側で取り組まれていたサクラマス海面養殖が衰退した理由は、ギンザケに比べサクラマスの成長が悪いことと、サケマス類輸入増加による価格低迷が要因(「SALMON情報 No11」(2017年3月))だと、一般的にそう考えられています。
 しかし、筆者は、過去にサクラマス海面養殖の取組みを支援する業務を担当した中で、成長や価格だけでなく、種苗の問題と熱心に取り組む人が育たなかったことも要因としてあったと考えています。

 種苗の問題には数(量)の確保と値段の二つがありました。道は、内水面業者に購入数を保証する代わりに飼育数を確保してもらい、海面養殖者に対し、はじめ1尾30円の種苗購入補助金を支出しました。補助金がインセンティブとなっていましたが、補助金が減額され、それに伴い種苗価格が上がり購入数が減少しました。購入数減少とその後の海面養殖衰退で、結果的に道内内水面業者の多くが廃業しました。

 漁業者も、最初は取組みに興味をもち熱心でしたが、給餌など冬季海上作業が多く、出稼ぎの方が収入になることなどから、最後は漁協や市町村の職員主体で取り組みが進められました。サケマスの輸入が少ない時代であっても、販売に苦戦し、企業化する方向に進みませんでした。

 養殖は経営の視点が大切で、経営努力と継続する意欲が必要となります。近年、養殖管理技術、餌、資材など多くのものは、民間企業が開発し販売しています。過去の技術的課題の多くは改善されました。今は、飼育試験をして生残や成長を確認する必要はなく、場所と水が確保できて、資材と種苗を購入さえできれば、誰でも取り組みが可能となっています。サケマス養殖は、民間企業が運営するキノコ工場や野菜工場と同じ段階にあると言えます。

 種苗は、内水面業者又は仲介業者から購入することになりますが、今は業者が少なく安定確保するのは大変です。

 種苗を確保できるとしても、利幅を少なくして大量に売るのか、少量で品質を高め利幅を多く取るのかを先に決めて、魚種、サイズ、集荷時期に合った種苗を業者に注文し生産してもらう必要があります。そのため、事前にマーケティングをして、自分たちはどんな商品をつくるのかをはっきりさせて、一定の品質に維持し継続する覚悟がなければ養殖は続きません。何がスペシャルなのか、どこの誰をターゲットにしているか言える商品が求められている中で、単に魚が大きくなったので売りますでは、今も昔も商売にはなりません。

 マーケティングなど自身で行うことが無理であれば、サケマス養殖技術開発の実績がある弊社のような企業と協力して、運営していく方法が考えられます。各地域で自分たちはどう進めるのかしっかり考え取り組まないと、一時のブームで終わってしまいます。失敗を繰り返さないためにも、過去の取り組みが続かなかった原因を知っておく必要があります。

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