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エコニュースVol.256

2014年10月01日

<化学分析シリーズ Part10・温泉 その3>

温泉の検査方法

株式会社エコニクス環境企画部
研究企画チーム 鹿糠 幸雄

 今年7月、12年ぶりに温泉の検査方法などを定めた鉱泉分析法指針が改正されました。早速、指針を入手し内容を確認したところ、いろいろなところで検査方法が見直されていることがわかりました。鉱泉分析法指針のまえがきにも、「分析機器の発展には目覚しいものがあり、かつては測定が困難であった微量領域を測定できる分析機器も登場している。また、分析者の健康を守る観点と、近年の地球環境への関心の高まりから、有害な試薬を使用しない分析手法や機器も開発されている。」とあり、今回の改正に反映されたものと考えられます。
 昨今の分析機器の発展は目覚ましいものがあり、質量分析計を筆頭に新しい検出器の改良・開発、機器の組合せによる新たな分析法の開発などが行われ、各社から続々と新機種が発表されています。微量の元素を分析するICP/MSという機器では、1ng/L(ナノグラムパーリットル)以上の感度を持っています。1ng/Lとは、東京ドーム1個分の容積の水(約120万m)に、小さじ1/4程度の物質(約1.2g)を溶かしたときの濃度で、ものすごく微量であることが想像できると思います。
 では、改正された鉱泉分析法指針に、これらの最新機器による検査方法が採用されたでしょうか?答えは「No」です。一般に温泉水は多種多様な化学組成を持ち、多くの成分を含んでいます。温泉の定義の一つに、「ガス状のものを除く溶存物質の量が温泉水1kg中に1,000mg以上含まれていること」というのがあります。先ほどの東京ドームで表すと、1,200トンの物質が溶けていることになります。このため、温泉水中の微量成分の分析に最新の高感度分析機器を使うと、たくさん溶け込んでいる成分が邪魔をして、うまく測れないことになってしまいます。
 それでは、どんな検査方法が採用されているのでしょうか。鉱泉分析法指針で採用されている検査方法は、主に炎光光度法、吸光光度法、重量法、滴定法などが採用されています。これらの方法は、古くから用いられている方法で、分析を行う者にすると基本中の基本と言える方法です。感度は最新の機器を使った方法には全然及びませんが、測定したい成分の選択性が高く再現性もよい検査方法です。一方で、分析者の腕も問われる方法で、化学の基本を知った上である程度の熟練が必要になります。分析を行う者としては、「腕の見せ所」です。


分析の様子

 最新の分析機器を駆使して極微量成分の分析を行う場面がある一方で、古くから使われてきた検査方法が現在でも活用されている場面もあり、測りたい対象と、測りたい成分によって検査方法を選択する技術が今の分析技術者には求められていると思います。試料を「ポン」と入れると、欲しい検査結果が一度に出てくる夢のような分析機器ができたら、ずいぶん楽なのになどと怠け心が湧いてきます。
 最後に、「ナトリウム-塩化物泉」などの温泉の泉質の決定は、温泉法ではなくここで紹介した鉱泉分析法指針によって決められています。意外でしょう。
 秋も深まってきました。色々な泉質の温泉に入りながら、夏の疲れを癒しては如何でしょうか。

 

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