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エコニュースVol.313

2019年07月01日

水産制度改革と漁場環境管理について

株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当  峰 寛明

 

1.漁業法とは

 平成30年の12月に70年ぶりに漁業法が改正されました。今回の法改正ではIQ導入などの水産資源の管理と、漁業認可(漁業権)の基本的な考え方が変わりました。これら漁業権制度と漁場管理の改正について経緯と内容を紹介したいと思います。

 

2.沿岸漁業と養殖業の漁業権

 沿岸漁業や養殖業は、採貝藻や刺し網など場所を移動しておこなう漁場のための共同漁業権、大型の定置網漁業のための定置漁業権、コンブ、カキなど位置が固定された養殖業のための区画漁業権の3種類が設定されています。これら漁業権は漁業協同組合または地元漁民を一定以上含む法人などに付与されてきました。改正法では共同漁業権は従来どおり漁業協同組合に付与されますが、定置漁業権、区画漁業権では既権者を優先しながらも手続き上では他の参入が可能になりました1)。具体的には「漁業権者が水域を有効に活用している場合は、その者に優先して免許」をあたえることとなります。なぜこれが漁業権付与の条件として明記されるのでしょうか。

 選定基準となる「漁業権者が水域を有効に活用している場合」とは、具体的に「資源管理などをおこない、持続的に漁業生産力を高めている場合」「海洋環境などを悪化させず、他の漁業者の生産活動に支障を来たすことがない場合」「合理的な理由がなく漁場の一部を利用していないといったことがない場合」などが挙げられています。この規定が明記されることになった理由としては、水産資源の所有的特徴があると思われます。

 

3.漁場管理の責務

 水産資源の所有権を具体的に示す法律はなく、民法239条の「無主物先占(所有者のない動産は所有の意思をもって占有することで所有権を取得する)」の利用形態をとっているため2)、「所有の意思を示す行動」にその所有権が委ねられます。この行為が漁獲であり、所有行動を起こすことを権利として付与することが「漁業権」の考え方になります。

 一方、水産資源は「無主物」であることの他に「更新性(再生産により増える)」「変動性(環境の影響を受ける)」と言った側面があるため、漁業権に基づく採取行為が「無主物」である水産資源を増やしたり減らしたりすることがあるのです。加えて漁業や養殖業は環境に負荷を与える場合があります。

 これまでは漁業者が漁業協同組合を主体として種苗放流や海岸のゴミ清掃、藻場の造成などを漁業活動の一環としておこなってきており、国もその活動を支援してきました。しかし、今回の改正では漁業権への新規参入や譲渡制度の見直しにより、多様な経営体が海域での漁業活動を共有することになるため、これまでのように慣例により漁業協同組合にその管理責任を負わせることに無理が生じることにもなります。

 そのため改正法では「漁場管理の維持などの活動が、高い透明性の下で将来にわたって安定的におこなわれるよう、漁場管理を都道府県の責務」とし、同時に漁業権者には「その漁場を適切かつ有効に活用する責務を課す」こととしました。


出典:「水産庁(2018)水産政策の改革について」

 

4.漁場管理の今後

 改正漁業法の施行は今後1~2年の間に段階的に進められ、漁場管理についても計画が策定されて、受益者の負担(協力)確認を経て具体化されると思われますが、環境変動が漁業活動と因果関係を持たない中で変動する場合に、環境保全の責をどこまで負うべきかは大きな課題です。

 例えば、カキ養殖やハマチ養殖は内湾や入り江などの閉鎖的な水域でおこなわれますが、ここでは底層水の貧酸素化が問題となっています。養殖の残餌や排泄物などがその一因となる場合もありますが、温暖化に伴う水温上昇も要因となります。アサリなどの二枚貝養殖は干潟でおこなわれますが、干潟は生態系の中の物質循環の中では、交差点のような重要な役割を果たしており、その受益者は漁業者に限りません。このように環境変動の要因や受益者が多様であることが、水産生物の生息環境の一般的な側面であることから、漁場環境保全の責任分担を科学的に明確にすることは、今後の大きな取り組み課題となりそうです。

 

 

<参考文献>

1)水産庁(2018)水産政策の改革について
2)水産庁(2010)平成21年度 水産白書

 

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