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エコニュースVol.273

2016年03月01日

<海の生物シリーズ Part28>

津軽海峡の不思議

株式会社エコニクス 顧問
佐野 満廣

 

 現在、当社では上磯郡漁業協同組合木古内支所で行われているヒジキ増養殖技術開発のお手伝いをしており、津軽海峡の海洋環境や資源についても調べています。今回、北海道ではこの辺りでしか獲られていない珍しい資源についてお話します。
 津軽海峡の海洋環境は黒潮を起源とする対馬暖流の影響を大きく受けています。対馬暖流が本州の日本海沿岸を北上し、その多くが津軽海峡を抜けることで津軽暖流と呼ばれ、1から3ノット(約0.5~1.5m/s)の速さで太平洋に流れ出ています。残りは北海道の沿岸を北上、一部は樺太西岸にも達しますが、さらに宗谷海峡を抜け宗谷暖流となってオホーツク海の北海道沿岸を南下し、根室半島にまで達します。また、津軽海峡中央部の表層から中層では日本海から太平洋に一方的に流れていますが、北海道と青森県の沿岸では還流や渦による反流などで、季節によっては底層の流れがほとんどなくなることも報告されています。
 
このように津軽海峡が暖流系水に支配されていることが、マグロやブリ、スルメイカなど暖海性資源の移動回遊経路になり、好漁場が形成される大きな要因と云えるでしょう。
 
津軽海峡北海道側のほぼ中央に位置する木古内町の前浜では、マコガレイ、ヒジキ、タイラギが資源として古くから利用されています。これら3種はいずれも九州をはじめ、本州の日本海や太平洋沿岸域で主に利用されている資源で、木古内町の前浜は商業的に利用されているわが国最北の分布域と言えます。
 マコガレイは北海道では珍しく夏が旬で、ヒラメ・カレイ類の中でも最も美味な魚のひとつとも言われています。大分県日出町の「城下がれい」が有名ですが、その干物は将軍家への献上品として扱われ、庶民の口には届かない魚として江戸時代から差別化されてきた高級魚です。しかし、木古内の漁師さんたちの間では「真がれい」と呼ばれ、本物のマガレイは腹側の尾に近いところに黄色い線が見られることから「黄まがれい」と呼ばれていました。

 次にヒジキですが、国内消費の約80%は韓国や中国から輸入された養殖物で、国産はすべて天然物です。国の統計でヒジキの漁獲量が公表されているのは平成7年から18年までですが、この資料で資源として利用されている地域をみると、木古内は最北の漁獲地になっています。九州各県、中国・四国の瀬戸内海沿岸、太平洋側では和歌山、三重の紀伊半島から静岡、千葉、岩手など各県の沿岸で漁獲されていますが、日本海側の山口から青森までの各県沿岸では漁獲されていません。要するに、日本海側でヒジキの漁獲されている地域をたどると、福岡県沿岸から一足飛びに津軽海峡の木古内の前浜に飛んでしまうのです。もちろん、生物学的な分布はあるものと思いますが、漁業で利用するほどではないのか、あってもその地域では資源的な価値が低いのか、いずれにしても公式統計に挙げられるほど利用されていないということです。本州日本海沿岸から津軽海峡は対馬暖流の影響を同じように受けており、この海流のつながりから見ても、本州の日本海沿岸で漁獲量として統計に上がってこないのに津軽海峡で獲られているのは、ちょっと不思議な感じがします。
 


ヒジキの天然漁場
 

 さらに、もっと不思議なのがタイラギです。タイラギは房総半島以南に分布し、有明海が名産地でしたが最近は漁獲量が減少し、三河湾や瀬戸内海の播磨灘、伊予灘などが主要産地になっています。殻長30cmにも達する大型の二枚貝で、最近は値が下がっているとはいえ、高値で6,000円/kgもする高級食材です。このタイラギが木古内の前浜に局所的に分布しているのです。以前は漁獲、販売されていましたが、最近は利用されていないようです。タイラギの子供はプランクトン生活を送るので、南の方から毎年移送されてきているのか、それとも、ここに根付いたタイラギが成長し、再生産を繰り返しているのか詳しいことはわかりません。タイラギのプランクトンが変態・成長し、木古内の前浜に根付いていることは紛れもない事実です。
 今は行われていないようですが、木古内では昭和50年代にホタテガイの地撒き増殖で1億円以上の水揚げをしていたことがあります。放流した稚貝が定着して出荷サイズまで成長したわけで、さらにタイラギが根付いていることからも、木古内の前浜には流れの弱い砂泥域があるようです。タイラギの漁獲もホタテガイの地撒き増殖も今は行われておりません。これらの資源が再び利用できるようになることを期待し、木古内の前浜の底質や流れがどうなっているのか詳しく調べてみたいものです。
 


タイラギの水揚げ状況(1983年)
 

 3月26日には北海道民待望の北海道新幹線が運行されます。北海道で、今、最も活気のある町が北海道新幹線最初の停車駅になる木古内町かもしれません。駅舎が完成し、すぐそばの道の駅「みそぎの郷 きこない」は1月にオープンし、賑わいを見せているようです。本州方面から多くの旅行者が立ち寄るであろう、新たな木古内町の顔です。木古内町には「寒中みそぎ」という伝統的な神事があり、毎年1月15日に厳寒の木古内の海で穢れなき4人の青年が佐女川(さめがわ)神社の四体のご神体を清め、豊漁、豊作を祈願するのです。
 みそぎの海で育まれた不思議な資源、マコガレイ、ヒジキ、タイラギなどが道の駅のレストランのメニューを彩る日が来るかもしれませんね。
 


道の駅「みそぎの郷 きこない」
 

<参考文献・ホームページ>
日本全国沿岸海洋誌 第4章 津軽海峡, 東海大出版会, 137-168, 1985.
漁業生物図鑑 新 北のさかなたち68. マコガレイ, 72. タイラギ, 北海道新聞社, 278-281, 288-289, 2003.
木古内湾のマコガレイについて;北水試だより第28号, 22-26, 1995.
褐藻ヒジキSargassum fusiformeの挟み込み養殖と人工種苗生産に関する研究;大分県農林水研セ研報(水産)No.3, 21-56, 2013.
“水産統計情報”. 水産庁. <http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/>
“木古内町公式ホームページ”. <http://www.town.kikonai.hokkaido.jp/>

※ 木古内町観光協会 藤谷晃章氏 提供

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