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エコニュースVol.268

2015年10月01日

<陸の生き物シリーズ Part19>

したたかなドングリの「生き残り戦略」

株式会社エコニクス 環境事業部
陸域環境Ⅱチーム 田口 敦史

 実りの秋となりました。スーパーの店頭には、美味しそうな柿やリンゴ、梨、ブドウなどがたくさん並んでいます。これらは、人間の目線では「おいしい果物」ですが、植物の目線で考えると、樹木がタネのまわりにつけた「果実」です。タネだけでは親の木の下にポトリと落ちるだけですが、オマケでおいしい「果実」をつけて、いろいろな生き物にそれを提供する代わりに、なるべく親木より遠く、広くタネを運んでもらって、あちこちで発芽させ、なるべく多くの子孫を残そう、という「生き残り戦略」なわけです。
その「おいしい部分」だけを勝手に利用してしまう人間とは、罪な生き物だな、などと考えると、いつも食べている果物も、何だか申し訳なくもありがたいものに思えてきます。
(実は、そうやって人間に利用させることすら、植物の戦略だったりする?かもしれませんが)

 今回は、そんな秋に実るタネのうち、誰もが知っている「ドングリ」について、意外と知らない?かもしれないお話をしてみたいと思います。
 一般に「ドングリ」と呼ばれるタネのうち、北海道でみられるのは、ブナ科コナラ属のミズナラ、コナラ、カシワのタネで、なかでもミズナラが最も多く、全道各地でみられます。
 このミズナラのドングリ、毎年同じ木に一定の量がなる、というわけではないのをご存知でしょうか?通常、沢山実がる「り年」と、あまり実が生らない「不生ふなり年」を一定のサイクルで繰り返しています。そして、このサイクルが、実は他の生き物を利用した「生き残り戦略」なのでは、という仮説があります
 ミズナラのドングリは、栄養価が高く、堅い殻のおかげで貯蔵性も良いので、特に冬の食べ物を貯食する習性がある、リスやネズミたちにとっては、非常に重要な食料です。ミズナラのドングリが、これらが食べきれないほど多く生っていれば、巣穴に蓄えた食べ残しが春に発芽し、親木から離れたところに運んでもらう戦略が成功、ということになります。
 でも、毎年同じ量のドングリが生れば、リスやネズミは食べたいだけ食べて数を増やし、いつか全てのドングリが食べられ芽を出せなくなる日が来るかもしれません。そこで、たまに「不生り年」を作ってリスやネズミを飢えさせ、その数を減らしてしまおう、その次の「生り年」は、ドングリの数が食べられる数より多くなり、食べ残しから発芽できる、という、複数年に渡る壮大なミズナラの戦略なのでは、という説です。
 この仮説、本当に能動的にミズナラがそうしているのか、はたまた単に結果論なのかは「ミズナラに聞いてみないとわからない」といったところですが。当社で関わったネズミの調査でも、ミズナラの「生り年」の翌年にネズミが増え、「不生り年」の翌年には減る、という現象は確認されていますので、少なくともネズミの量とドングリの量に関係がある、というのは確かなようです。
 こうした自然の営みを知れば知るほど、自然というのは人知の及ばない偉大な仕組みをたくさん持っていて、私達はそうした仕組みに生かされている存在なのだな、と気付かされます。


ミズナラの実生発芽

<参考文献>
※ 水井憲雄・橋場一行(1994)北海道における1991年~1993年のミズナラ堅果の豊凶. 光珠内季報, 97, 5-8.

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