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エコニュースVol.233

2012年11月01日

<河川環境シリーズ Part6>

クニマスに思うこと・・・

株式会社エコニクス
環境事業部 陸域環境チーム 伊藤 尚久

 今年の8月28日、環境省が9分類群(哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類、貝類、その他の無脊椎動物、植物Ⅰ(維管束植物)、植物Ⅱ(維管束植物以外))について第4次レッドリストを公開しました。その中で、国の特別天然記念物であり、「絶滅危惧種」に指定されていたニホンカワウソが「絶滅種」とされました。これまでに「絶滅種」に指定されている哺乳類は、ニホンオオカミ等の4種であり、最後の生息確認はいずれも明治時代でした。ニホンカワウソの最後の生息確認は昭和54年(1979年)です。昭和まで生息していた哺乳類が「絶滅種」に指定されるのは今回が初めてとなります…


田沢湖と辰子像


 「絶滅種」や「絶滅危惧種」が増加しつつある中、一昨年(2010年)、「絶滅種」に指定されていた魚類のクニマスが70年ぶりに山梨県の西湖で現存個体群として発見されるというニュースが各メディアで報道され、話題になりました。釣りキチ三平の愛読者である筆者にとっては、「矢口高雄氏の思い描いていた夢※が現実になった!」と非常に興奮させられたニュースでした。
 クニマスは、世界で唯一、秋田県の田沢湖のみに生息していたサケ科の魚類です。かつては、辰子伝説と関係して「木ノ尻鱒(キノシリマス)」と呼ばれていましたが、享保年間に藩主の佐竹公へ献上した際、「国鱒(クニマス)」として改名されたといわれています。付近住民にとっては重要な漁業対象魚であり、高価な食用魚でした。
 田沢湖を含む雄物川支流玉川水系は豊富な水量があり、戦前から電源開発と農地開拓への利用計画が検討されていました。昭和9年(1934年)の東北地方大凶作を契機としてその計画が実行され、昭和15年(1940年)に玉川の強酸性水(pH1.2)が田沢湖に注ぎ込まれました。その結果、田沢湖の水質は酸性(pH4.5~4.6)となり、クニマスをはじめとした多くの魚影が消えてしまったのです。近年は、中和処理施設の稼働によって田沢湖表層部の水質はpH5.3程度となっており、コイやウグイの魚影が見られるようになっています。

※昭和初期、クニマスの絶滅危機を憂う若き日の一平じいちゃん(三平の祖父)は、わずか500粒の発眼卵を地図に記載されていない秘密の地底湖に放流した。一平じいちゃんが亡くなる前年にその話をしていたことを思い出した三平は、魚紳さんと一緒にその地底湖へクニマスを探しに出向いた。その結果、クニマスは自然繁殖しており、秘密の地底湖は新たな生息地となっていた。(釣りキチ三平 平成版1-地底湖のキノシリマス-より)

 なお、今回公開されたレッドリストには汽水・淡水魚類が含まれていません。絶滅したとされてきたクニマスの位置づけについて再検討を要したためと思われますが、先日(9月23日)の報道では「絶滅種」から本来の生息地以外で種が存続している「野生絶滅種」に変更する方針を固めたようです。
 「絶滅種」の生存が確認されたという事実は大変喜ばしいことですが、クニマスについては今後慎重な対応が必要だと思います。西湖のクニマスは、自然繁殖していることから野生状態にあると言えるでしょう。西湖で漁業を営む人々の生活を無視してクニマスの保護対策を講ずることは慎むべきではないでしょうか。また、西湖のクニマスは人為的に移入された種であり、西湖本来の生態系を攪乱していないとは言い切れません。そういえば、釣りキチ三平の一平じいちゃんもクニマスを他水域へ移殖放流した若き日の自身の行為について、その是非を生涯ずっと悩んでいました…
 田沢湖が本来の水質を取り戻し、クニマスが再び生息できるような環境になるにはまだまだ時間がかかりそうです。それまでの期間、世界的にも珍種であるクニマスの未知なる生態の究明が進展することを期待してやみません。


クニマス標本

<参考資料>
矢口高雄:釣りキチ三平 平成版1-地底湖のキノシリマス-,講談社,2002
中坊徹次:クニマス Oncorhynchus kawamurae -絶滅から復活,そして今後-,日本水産学会誌 77(3),469-472,2011

 

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