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エコニュースVol.294

2017年12月01日

<陸の生物シリーズ Part25>

「ヤマトシジミ」と「ヤマトシジミ」

株式会社エコニクス 環境事業部
武田 康孝

 

 皆さんは「ヤマトシジミ」といえば、何を想像するでしょうか?きっと多くの方々はお吸い物などで良く食べるあの黒い貝のことを思い浮かべることでしょう。日本にはもう一種類の「ヤマトシジミ」という生きものがいます。今回は、別のヤマトシジミについてご紹介いたします。(貝のヤマトシジミについては、Econewsのvol.078~080、vol.218で詳しく触れています。)

 その「ヤマトシジミ」とは昆虫で、チョウ目シジミチョウ科に属する小型の蝶になります。この蝶は北海道には生息しておらず、本州以南に分布しています。津軽海峡を挟んで対岸にある青森県では、今世紀に入ってから定着が確認され、青森県産のチョウ類に仲間入りしています。北海道の目と鼻の先まで分布を広げているのですが、移動能力の乏しい小さな蝶のため、津軽海峡のような大きな海峡を移動して、北海道まで分布を広げ、定着することはこの蝶にとって大変なことなのかもしれません。

 


写真1 ヤマトシジミとカタバミ (提供/坂本洋典氏)

 

 このヤマトシジミですが、幼虫はカタバミ(片喰、酢漿草)を食草(ある昆虫が食物としている植物のこと)としており、この蝶の分布にはカタバミの分布は切っても切れない関係があります(写真1)。カタバミが生育していれば、この蝶が生息していると考えても良いでしょう。また、この蝶の幼虫は体に甘い液を分泌する器官(蜜腺)を持っていて、アリがそこから出てくる液体を舐めに集まってきます。結果的には幼虫はアリによって外敵から身を守られていると考えられ、アリと相利共生(異なる生物種が同じ場所に生活することで、互いに利益を得ることができる共生のこと)の関係を築いていると考えられています。

 一方、この蝶の成虫は、翅裏の色が灰色地に黒い斑紋が散りばめられ、雄と雌とで大きく相違はありませんが、翅表の色は雄雌で大きく異なります。雄は黒地に明るい水色を吹いたようなかわいく綺麗な色合い、雌は黒色っぽい色のみの多少地味な色合いと、異なった翅色をしています(写真2)。雌はまるで貝のヤマトシジミのようにも見えます。ちなみにこの翅が貝のシジミに大きさや形が似ていることから、また、大和の国(日本)に広く分布していることから「ヤマトシジミ」となった…と言われています(諸説があります)。

 
写真2 ヤマトシジミの翅表色(提供/坂本洋典氏) 左:♂、右:♀

 

 漢字で書くと、蝶のヤマトシジミは「大和小灰蝶」や「大和蜆蝶」と書くため、貝のヤマトシジミ「大和蜆」とは区別がつきます。しかし、正式な日本語名称(和名)を表記、あるいは会話する中では全く同じ綴りや発音となるため、うっかり間違ってしまうことがあるかもしれませんね。

 この蝶の「ヤマトシジミ」ですが、近年分布を北方に拡げていることから、津軽海峡を越え、そして北海道まで渡って来る日がくるのでしょうか…。

 

 

 

<参考文献>
石井実(2011)里山の崩壊で急速に衰退する日本的なチョウ類.一般財団法人 大阪防疫協会 機関紙「Makoto」,156号.
“青森の蝶たち~特集”.青森の蝶たち.
< http://ze-ph.sakura.ne.jp/work.html>
“ヤマトシジミ-足元を飛び回る街の蝶-”.富山市科学文化センター.
< http://www.tsm.toyama.toyama.jp/_ex/public/wadai/kontyu/no254.pdf >

※写真については玉川大学の坂本洋典氏に多大な協力をいただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。

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