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エコニュースVol.340

2021年10月01日

平氏にまつわるカニのお話

株式会社エコニクス 電力環境部
武田 康孝


 今回は、『ヘイケガニ』をご紹介します。

 ヘイケガニは節足動物門の軟甲綱十脚目ヘイケガニ科に属するカニの1種です。甲幅(甲羅の幅)は2~3cm程度と小型で、北海道南部以南の沿岸に分布し、砂底や砂泥底などに生息しています。夜行性で日中は砂の中に潜み、夜間に活動します。

 このカニの甲羅は模様が人間の怒りの表情に似ていることで知られ、国内では瀬戸内海で多く獲れたこともあり、古くからは平氏と源氏が争った壇ノ浦の戦いで海に散った平氏の無念をなぞらえ、「敗れた平氏の魂が乗り移った」という伝説が伝えられています。

 この平氏の魂が乗り移ったという説は研究者によっても取り上げられ、人為淘汰説が展開しました。曰く「瀬戸内海周辺の漁師(人間)にとって、ヒトの顔のように見えるカニは平氏の亡霊を連想させるものであったため、忌み嫌って獲らない、あるいは食べないことから、結果的に益々ヒトの顔に近い形態の甲羅を持つカニが生き残った」という説です。

 この仮説は多くの国内外の研究者によって論争を呼び、最終的に国内外でこの種の化石が発見されたことによって終息して現在では否定されています。

 人は3つの点が集まった図形を見ると、「シミュラクラ現象」という人の顔に見えてしまう脳の働きがあり、この現象が「顔に見える」という由縁とも考えられています。

 

 

【ヘイケガニ】

 

 さて、このカニを見ると、普通のカニと少し変わった点にお気づきでしょうか?

 後ろ2対の4番目と5番目の脚が妙に短く、上向きについて鉤状になっています。2番目と3番目の脚と比べても明らかに長さ、形状は異なります。これは、このカニの4番目と5番目の脚は自分が歩いて移動するための脚というより、自分の身を外敵から隠すために、貝殻などを背負うための脚となっているからです。

 

 平氏とはあまり由縁のない北海道にもヘイケガニの類としてサメハダヘイケガニが分布します。甲幅はヘイケガニより少し大きく3~4cmぐらい、その名の通り、甲羅表面がザラザラとしたサメハダ(鮫肌)をしたヘイケガニです。甲羅にはしっかりと人の顔のような模様があります。

 人の顔に見えるでしょうか?私は何となく仁王様の顔に見えて、畏怖の念を持ってしまいます。

 

【サメハダヘイケガニ】

 

 以上、ヘイケガニ(サメハダヘイケガニ)というカニについてご紹介しました。

 

【参考】
出口宗和(1987)雑学魚あれこれ事典.西東社.

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