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エコニュースVol.331

2021年01月01日

海からウシへ。海藻は地球温暖化抑制のカギになるか?

株式会社エコニクス 環境事業部
環境解析チーム 河合 百華


謹んで新年のご祝辞を申し上げます。

 旧年中は思わぬ新型コロナウィルスの流行が発端となり、落ち着かない日々を過ごされた方もいらっしゃることと思います。この状況が一歩一歩、確実に収束に向かうことを願いますとともに、新しい年が皆様にとってより佳き年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。


■地球温暖化と牛の関係

 「牛のげっぷが地球温暖化を加速する――」、こんなフレーズをどこかで耳にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 牛、羊、山羊、トナカイ、キリンなどに代表されるような草食の反芻動物は、草に含まれる繊維質を消化器の中にいる微生物の力を借りて消化を行い、エネルギーを得ています。この過程の副産物として生じるのがメタン(CH4)で、二酸化炭素(CO2)に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスとされています。国際連合食糧農業機関(FAO)による「畜産業の環境負荷報告書」(2006年)によると、地球温暖化の原因となる温室効果ガスのうち18%は畜産業に由来するものであると報告されています。そのような背景もあり、近年ではおもに畜産国で、家畜からのメタン発生を削減する研究が盛んになっています。

 

『今年もよろしくお願いモウし上げます』


■牛から発生するメタンの抑制の研究事例

 研究事例としては、牛に与える飼料の開発から遺伝学分野によるものまで、様々な分野で可能性が模索されています。
 例えば、飼料や飼料添加物の事例では、抗生物質や硝酸塩のような薬品類からカシューナッツ殻液、生コメ糠、ハーブのような植物由来のものまで、様々な物質で投与試験が行われており、牛の消化管内のメタン発生に対して抑制効果が報告されています。
 また、遺伝学分野の研究事例では、牛を選択的に交配することで牛から排出されるメタンを削減できる可能性が示されています。この研究によると、牛からのメタン発生に関係する微生物は継代的に受け継がれる、つまり、メタンを生成する微生物が活発にならない遺伝的形質をもつ牛になるよう品種改良を行っていけば、メタン発生の低減効果に期待がもてるというものです。

 

■海藻が牛のげっぷを減らす!?①(研究例:オーストラリア)

 そのような中、畜産が盛んなオーストラリアで、牛の飼料にカギケノリ(Asparagopsis taxiformis)という種類の海藻を少量まぜると、メタンの放出量を約99%削減した、という面白い研究事例がありましたのでご紹介します。
 カギケノリは白っぽい赤紫色をした紅藻類の1種で、細かい毛状の小枝をフサフサ密生させているのが特徴です。分布域は国内では本州太平洋岸中・南部、九州、南西諸島で、北海道には分布しないとされています。海外では朝鮮半島、台湾、太平洋熱帯域、オーストラリア、紅海などで確認されています。
 研究によると、飼料に対して2%の重量の乾燥カギケノリを混ぜるだけで、牛のげっぷがほぼ完全に抑制されたとのこと。カギケノリには牛の消化器にいるメタン生成細菌を減らす化学物質(ブロモホルム)が含まれており、牛の飼料に加えることで発酵作用と消化機能への影響を最小限にとどめながらも、メタンの発生をほぼ完全に防げるということです。研究者らによると、もしオーストラリア国内の全ての牛が食べるエサにカギケノリを十分供給することができれば、オーストラリアが排出する温室効果ガスを10%削減できるとしています。実現のためには、今後はカギケノリの安定供給が重要となるため、カギケノリの培養に関する研究も進められているそうです。

 

   

写真 カギケノリ(左:水中、右:おしば標本)

 

■海藻が牛のげっぷを減らす!?②(研究例:アメリカ)

 
カギケノリを利用したメタン抑制効果の研究は、他の国々でも行われています。例えばアメリカでは、大学と民間企業が共同し、カギケノリを使用した飼料サプリメントの開発・研究を行っています。このサプリメントを飼料に混ぜて牛に与えたところ、牛に悪影響を与えることなく、メタンの排出量が劇的に減少したと報告されています。飼料に対して添加するサプリメントはごく少量(重量に対して0.3%未満)で効果があり、牛はメタンのげっぷのかわりに、大気に害を及ぼさない濃度の二酸化炭素と水素ガスを排出するということでした。
 ちなみに研究の一環として行われた試食テストでは、参加者は肉の風味とやわらかさに対して好意的な評価であったようです。
 もしかすると、いつの日にかカギケノリのような海藻が、地球を温暖化から救う日が来るのかもしれませんね。
 牛たちにとってはちょっぴり迷惑な話かもしれませんが…。

 末筆になりましたが、2021年度も弊社の使命である「自然と人間が共生する生態社会において、調和ある環境保全と利用開発」を実現すべく、人と自然が共存できる環境づくりに尽力して参ります。

 私共でお役に立てることがございましたら、お気軽にご相談下さい。


※備考:ブロモホルムは有機化合物の1種であり、多量摂取により健康に正の効果を与えるものではありません。


【参考文献】
国土交通省 気象庁 ホームページ:「知識・解説 地球温暖化」.
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/index.html
生きもの好きの語る自然誌 ホームページ:「カギケノリ Asparagopsis taxiformis」.https://tonysharks.com/Tree_of_life/Eukaryote/Plantae/Rhodophyta/Asparagopsis_taxiformis/Asparagopsis_taxiformis.html
小林泰男(2013):カシューナッツ副産物給与によるウシからのメタン生成削減. 環境バイオテクノロジー学会報, 13(2), 89-93.
サンシャインコースト大学 ホームページ:「Burp-free cow feed drives seaweed science at USC」.
http://www.nies.go.jp/whatsnew/20200806/20200806.html
鈴木知之・寺田文典・川島知之(2017):日本および東南アジアにおけるウシからの消化管発酵由来メタン排出抑制の可能性. 栄養生理研究会報, 612(2), 21-31.
富山大学生物工学科 応用生物プロセス学研究室 ホームページ:「研究内容 ハロゲン化酵素の機能とその応用」.
https://www.pu-toyama.ac.jp/BR/itoh/1-3.html
山田信夫(2013):海藻利用の化学. 成山堂書店.
Blue Ocean Barns社 ホームページ:https://www.blueoceanbarns.com/
Japan Forbes ホームページ:「温暖化要因となる牛が放出するメタン、藻類サプリで激減」.
https://forbesjapan.com/articles/detail/37827/1/1/1
Steinfeld, H.; Pierre, G.; Wassenaar, T. ; Castel, V. ; Rosales, M. ; De Haan, C.,(2006). Livestock's Long Shadow -Environmental Issues and Options-. Food and Agriculture Organization of the United Nations.

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