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エコニュースVol.327

2020年09月01日

磯焼けの現状と漁業の未来

株式会社エコニクス 電力事業部

火力発電所T 西川 明豪

 

 沿岸域で海藻が生育しなくなる「海の砂漠化」とも言われる「磯焼け」という現象があります。この現象は、北海道各地、特に道南日本海沿岸域で顕著に現れています。元来、北海道沿岸の岩礁域にはコンブ藻場と言われるコンブの大群落が形成され、北海道の豊かな漁業生産を下支えする基盤となっています。磯焼けが進行すると、コンブ等の海藻が生育しなくなり、石灰藻と言われるサンゴモ科の紅藻類が岩礁表面を覆い尽くし、このような紅藻類も餌にできるウニが増えています。「ウニが増えるなんて、海が豊かな証拠じゃないの?」と言われそうですが、実はそうではありません。藻場はどのようにして豊かな海を下支えしているかご説明いたします。

 

・藻場の役割

 『改訂 磯焼け対策ガイドライン』(水産庁(2016))では、藻場の機能を以下の7つに分類しています。

 

表 1 藻場の機能

(『改訂 磯焼け対策ガイドライン』(水産庁(2016))より引用)

 

 ①基礎生産や②栄養吸収については食物連鎖で言う「生産者」の役割で、光エネルギーを利用した光合成で炭素を固定して有機物を作り出し、様々な生物のエネルギー源として利用されます。また、③食物供給や⑦環境輸出においても、無機物から有機物を作り出して物質循環(特に窒素(N)の循環)を促進することから、海の浄化にも貢献します。③ではコンブはウニ・アワビの直接的な餌料となり、その増殖や成長を支える役割を果たします。

 このうち特に重要な機能は④の環境創生で、魚類及びその餌生物の産卵・育苗場や生息空間を創出し、食物連鎖を作り出す場となっています。ワレカラやヨコエビ類は藻場を生活基盤として利用し、これら生物を捕食して成長する魚類も多く存在します。近年北海道沿岸で漁獲量が徐々に増加しているニシンを例にすると、冬季から春季に浅海の藻場に粘着卵を産み付けて、産卵後は沖合で索餌します。産卵する藻場が無ければ産卵できない、孵化した仔魚の近くに餌生物が豊富に居なければ仔魚もすぐに餓死する、といったことに繋がり、水産資源の下支えには藻場が大きく貢献していることが伺えます。

 このように豊かな海の生産力を維持するために重要な役割を担っている藻場ですが、北海道の藻場の面積は減少し続けています。ウニは磯根資源として重要な水産生物のため、種苗生産と放流は継続的に行われてきています。ウニは、主な餌料となるコンブが無くなるとサンゴモ科の紅藻類や動物の死骸、河川から運ばれてきた陸上の植物なども餌料として利用することができ、磯焼けの海でたくましく生き残ることができる生物ですが、このようなウニは身入りが悪かったり、味や色が良くないなどで商品価値が低く、漁獲が敬遠されています。漁獲されなくなると更にウニの密度が高くなって、磯焼けが進む悪循環に陥ってしまいます。海が磯焼け状態になり、これが継続すると海の生産力が徐々に低下していくことになり、漁業が成り立たなくなる事態にもなりかねません。

 

・藻場の衰退要因

 藻場の衰退要因としては、①種不足②光不足③栄養塩不足④食害⑤水温、流れ等の生育環境変化などが挙げられています。そして、多くの場合、これらの要因が複雑に作用し合い藻場の衰退を引き起こしていると考えられています。北海道のコンブ藻場では、冬期のウニによる食害が主な要因となっている事が多く、ウニが侵入できない区画を作るとその区画内だけ藻場が形成されるといった事例はたくさんあります。しかしながら、近年では地球温暖化の影響で海水温が徐々に上昇している傾向も見られており、ウニによる食害を防ぐだけでは北海道のコンブ藻場再生は難しい状況です。海水温の上昇については、人間がコントロールできるものではないため、これまでとは違った視点で藻場の造成手法を検討していく必要があります。

 

・藻場と漁業の将来展望

 北海道沿岸のコンブ藻場は、その多くが冷水性の種で、海水温が高いと生育できなくなってしまいます。今後、海水温が徐々に上昇してくると、室蘭から道南知内周辺、青森、岩手まで生息するマコンブの分布域は今後、徐々に北上していく可能性があります。また、同じコンブ科の海藻で、もっと南に分布するアラメやカジメなどの分布域も北上し、道南の海藻群落の形成種が変化するといったことも考えらます。

 北海道では、近年、サケの漁獲量が減りブリが漁獲されるといった変化が生じています。石狩湾系群のニシンは、積極的な種苗放流や目合調整による資源管理が功を奏し、近年の漁獲量は増加しました。群来(くき:大量のニシンが産卵放精し、海が白濁する現象)が毎年見られるようになってきた海域も存在しますが、今後も海水温が上昇し、産卵場所である沿岸藻場の形成種が変化すると産卵場も移動し、ニシンの漁獲量も大きく変化する可能性も考えられます。

 藻場造成などにより生育・産卵場を守り、豊かな海を維持するには、海水温、潮流などの物理環境の変化や生物相の変化を敏感に察知し、長期的視点でその変化に対応する事が、今後は重要になってくると考えられます。弊社ではセンシング技術を活用した無線海洋観測ブイや、安価で容易に海中の世界を観察できる水中カメラによって、海の中の変化を"みる"ための技術開発に取り組んでいます。

 

 北海道の海は豊かで恵まれていると思います。私たちはこの先も調和ある環境保全と利用開発を通じ、豊かな北海道の海づくりに力を尽くしたいと考えています。

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