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エコニュースVol.304

2018年10月01日

フシスジモクという海藻

株式会社エコニクス 泊事業部
泊担当チーム 土門 史記

 

 今回ご紹介する海藻は、フシスジモクという褐藻植物です。

 フシスジモク等の大型褐藻植物によって群落が形成されているものを藻場(もば)と呼称し、ニシン・ハタハタの産卵場や孵化した仔稚魚の成育場となる事から、「海のゆりかご」とも表現されます。

 私の勤務地である積丹半島南西部では、コンブ等の海藻類が繁茂しなくなる磯焼け現象が深刻な問題となっています。磯焼け現象の深刻化により、このフシスジモクの藻場も失われつつあります。

 


写真-1 フシスジモクの群落

 

 フシスジモクは、褐藻綱ヒバマタ目ホンダワラ科の多年生海藻で、食用としておなじみのヒジキや、近年含まれる成分等が注目されているアカモクの仲間です。フシスジモクを含むホンダワラ類はコンブ類等と異なり、雌雄異株(性別がある)として知られています。

 写真-2のように、雄性個体の生殖器は雌性個体と比べて長いのが特徴で、一方、雌性個体の生殖器は短く、先端部が卵により黒く色付いている事が分かります。この写真の雌性個体は放卵の終わり頃であったため先端部のみに卵が確認できましたが、放卵初期であれば生殖器全体に黒い斑点状に卵が確認できます。

 採取した地域周辺の成熟期は6月中旬から7月上旬と推察され、放精放卵は数回に分けて行われます。

 

 
写真-2 フシスジモクの雄性個体の生殖器(左)と雌性個体の生殖器(右)

 

 雌性個体から放出される卵は粘性質で、生殖器の表面に留まった状態で受精します。海底に着生する3~5日前に仮根を形成し、生殖器から離脱すると考えられています。生殖器から離脱した幼胚は海底に着底し、写真-3のような葉体長1~2㎝程の幼体となり、小さな状態で水温が上昇する春を待ちます。

 


写真-3 フシスジモクの幼体

 

 その後、初夏にかけて一気に生長しますが、冬期間の荒波による流失やウニ類・巻貝等の食圧により初期減耗が大きい事でも知られています。

 弊社では、写真-1のような「新たな海のゆりかご」を造成するべく、これまでフシスジモク()(そう)の供給や着生基質の設置、競合海藻類の除去、食害生物の除去・密度管理等に取り組んでいます。どこか人間味を感じるこの海藻について、我が子のように立派な大人になるんだぞと心をこめて取り組んでいますが、なかなか思い通りにはいかないことも多く、フシスジモクの藻場造成はコンブのそれより10倍難しいと感じています。

 親の心子知らずといった状況ですが、これからもめげる事なく愛情を注ぎ、ニシンやハタハタの稚魚が泳ぎ回るフシスジモクのゆりかご造りを目指し取り組んでいく所存です。

 

 

<参考文献>
奥田武男〈1985〉ホンダワラ類における幼胚の入手と着生機構.海洋科学,17(1), pp.38-44.
川越力ら〈2005〉異なる水温が北海道産フシスジモクの受精卵、幼胚、幼体に及ぼす影響.水産増殖 53(2), pp.181-187.

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