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エコニュースVol.292

2017年10月01日

<生物多様性シリーズ Part11>

ウグイシリーズ 第2弾

株式会社エコニクス 環境事業部
陸域環境チーム 森山 友雄

 ウグイシリーズ第2弾です。今回はウグイ属のマルタについて、近年の研究成果についてお話しします。

 マルタは降海性の魚類であり、東京湾から富山湾までの本州、北海道、サハリンおよびハバロフスク地方南部、沿海地方から韓国東岸までの沿岸に分布します。そのうち、東京湾や茨城県などに生息するマルタと、青森県の十三湖等に生息する北方のマルタを比較すると、前者の方が後者より①吻が短い、②側線鱗数が少ない、③塩分耐性が若干高い、といったいくつかの相違点があるため、前者をマルタ型(図1のA)、後者をジュウサンウグイ型(図1のB)とする報告等がありますが、見解が一致していないのが現状でした。そのような中、日本および周日本海のマルタの標本による詳細な形態学的な比較検討を行い、本種2型の存在を明らかにする研究が行われました。

 


図1 2つのタイプのマルタ(A:マルタ型 B:ジュウサンウグイ型)

 (天野翔太、酒井治己,2014)

 

 マルタの様々な形質を計測・計数し、統計処理を行った結果、マルタ型およびジュウサンウグイ型が確実に存在することが示されました。この結果から得られたマルタ型とジュウサンウグイ型の分布状況は図2のとおりです。

 


図2 2つのタイプのマルタ分布状況(○:マルタ型 ●:ジュウサンウグイ型)

(天野翔太、酒井治己,2014)

 

 この結果から、マルタ型とジュウサンウグイ型は分布の重複が無いため、それぞれ少なくとも亜種以上の関係にあると考えられます。遺伝子を用いた別の研究では大船渡湾および東京湾のマルタ型と東北および北海道産のジュウサンウグイ型間で、Gpi-1の遺伝子座の対立遺伝子置換が認められ、交雑の痕跡はみつからず、別種である可能性もあるとのことです。更なる研究成果が待たれるところです。

 そして今後は、我々が携わる業務においてマルタを2つのタイプに分けて扱うシーンがでてきそうです。

 

 ところで、以前のエコニュース(Vol.209 2010年11月)でウグイ属の「頭部側線感覚器官の後顳(こうせつ)じゅん連合」の開口部の数え方の裏技について、紙面の関係上「またの機会」としていましたが、ようやくその機会が巡ってきましたのでお伝えしたいと思います。やはり生きたままでは開口部は数えることが困難ですので、サンプルはホルマリン等で固定されたもの限定となります。まず、水でしっかりホルマリン等を抜いた後、サンプルを乾燥させていくと開口部が血管のように浮き上がっていきますので(干物のようになっていきます)、この時に開口部を数えます。具体的には、串等の先の尖ったものに墨をちょっと付け、墨を開口部に落としていくと、毛細管現象により開口部から開口部を繋ぐ管を通じて墨が入り込み、隣接する開口部から墨が出てくるため、開口部が数えやすくなります(串等で怪我をしないように注意してください)。

 


図3 ウグイおよびエゾウグイの頭部側線感覚器官の後顳(こうせつ)じゅん連合

(「原色淡水魚類検索図鑑(北隆社)」に一部加筆)

 

 

<参考文献>
天野翔太、酒井治己(2014) 降海性コイ科魚類ウグイ属マルタ2型の形態的分化と地理的分布.
Journal of National Fisheries University,63 ⑴:17-32
中村守純(1963)原色淡水魚類検索図鑑.北隆館,東京.

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