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エコニュースVol.282

2016年12月01日

<化学分析シリーズ Part12>

温泉と硫化水素

株式会社エコニクス 環境事業部
生活環境チーム 舟木 由衣

 先日、道内の温泉施設で硫化水素中毒が発生したという報道がありました。温泉の硫化水素については、環境省が「公共の浴用に供する場合の温泉利用施設の設備構造等に関する基準」を定めており、中毒の恐れのある施設における構造上のルールを規定しています。しかしながら、硫化水素による死亡事故は依然として発生しており、環境省でも対策を検討しているようです。

 弊社では温泉の登録分析機関(北海道第10号)として、北海道内の一部の温泉水の分析を行っております。普段なかなか注目されない内容だと思いますので、今回は温泉施設の硫化水素中毒対策について少し紹介してみたいと思います。

○まず硫化水素の特徴ですが…
 腐卵臭を持つ無色の気体で、硫黄を含む温泉などでは自然発生しています。空気より重く、下方に溜まりやすい性質があります。人の場合、硫化水素のにおい自体は鼻の良い人であれば0.0005ppm程度から感じはじめますが、作業環境としての許容濃度は10ppmです。高濃度の場合は粘膜に作用し、嗅覚、目、気管支や肺にダメージを与え、死にいたる場合もあります。

○温泉利用施設の設備構造等に関する基準
 上記の特徴を踏まえたうえで、硫化水素中毒の恐れのある温泉施設(硫黄成分を2mg/kg以上含む温泉を扱う施設)には、以下の構造上の基準が設けられています。くぼみなどを無くし、硫化水素を滞留させないことが目的です。

 

 これらの対策を講じても、許容濃度を超えてしまう場合は、さらに源泉から浴室までの間に湯畑等のばっ気装置を設け、湯中の硫化水素濃度を下げる処置が必要となります。尚、20ppmを超えるあたりから嗅覚疲労(慣れ)により硫化水素のにおいを感じにくくなるため、人の嗅覚による判断は大変危険です。

 以上のように、硫化水素は身近な物質でありながら、人の健康に重大な影響を及ぼす危険な側面があることは事実です。一方、温泉としての硫黄泉は、アトピーや湿疹など皮膚の病気に効果があるとされ、飲用することで糖尿病や高コレステロール血症の症状改善が期待できます。なにより、ほんのりと漂う硫化水素のにおいは温泉らしい風情に満ち、ゆったりとした気持ちにさせてくれます。
 これら温泉の恵みをこれから先も継続して楽しむことができるよう、硫化水素の危険も理解して、適正な利用を心がけましょう!

 


北海道大雪山系のお鉢平

 有毒温泉があり、立ち入り禁止となっています。一説によると、ヒグマも倒れてしまうほど高濃度の硫化水素が発生しているとか。

 


硫黄が析出した温泉

 硫黄を含む温泉には硫化水素型ではないものもありますが、飲用する際に胃酸と反応して硫化水素が発生する場合があり、注意が必要です。

 

<参考文献>
“公共の浴用に供する場合の温泉利用施設の設備構造等に関する基準”.環境省.
< http://www.env.go.jp/hourei/18/000050.html >
“平成27年度 温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止策検討委託業務報告書”.公益財団法人中央温泉研究所.
< https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/ >
“温泉法”.環境省.
< https://www.env.go.jp/nature/onsen/outline/ >
“悪臭防止法”.環境省.
< http://www.env.go.jp/air/akushu/low-gaiyo.html >
“酸素欠乏症・硫化水素中毒災害の防止について”.厚生労働省.
< http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/07/tp0710-1.html >

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