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エコニュースVol.189

2009年03月01日

<沖合漁場整備シリーズ Part12>

沖合漁場整備について(パート2)

株式会社エコニクス
環境事業部 水域環境チーム 峰 寛明

1 沖合漁場整備について
 漁場整備とは、生産力が低い環境に人為的に手を加え生産力を高める行為の事で、土木的な整備が中心となります。前回述べた牧鯨や養殖は回収システムあるいは直接給餌であり、生産力を向上させる行為ではないので漁場整備には入りません。沖合に漁場を整備する方法としては沈設魚礁、浮魚礁、人工海底マウンドなどが挙げられます。
2 沈設魚礁
 沈設魚礁は平坦な海底に設置した構造物で、魚の住みかとなったり餌生物を供給するものです。
 住みかとなるには、魚礁が形成する陰影や魚の走蝕性が利用されています。餌生物の供給には構造物の背後などに形成される渦流を利用しています。
 沈設魚礁の構造はコンクリートや鋼製のものが主流で、ジャングルジムのような中空の骨構造である事が多いです。鋼製のものは高層化が進み大きなものは高さ40~50mに及びます。
 国が行う沖合漁場整備の第1号は島根、鳥取、兵庫県の沖合にあたる海域に整備されたズワイガニ・アカガレイの保護育成礁です。平成20年11月に工事が完了しその後の効果が期待されます。


設置された保護礁とズワイガニ
(水産庁報道発表資料より:http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/seibi/081112.html)

3 湧昇流発生工(人工海底山脈)
 海底にコンクリート製の衝立を設置し、海底の流動により底層の栄養塩を表層に湧昇させ一次生産を増大させる工法です。イワシ、サバ等の表層回遊魚の増産効果が期待されています。人工海底山脈は、一片2~3mの方形ブロックを多数海底に沈設して形成する人工的な山脈であり、衝立式と同様の湧昇効果を得る工法です。
 この人工海底山脈が日本ではじめて実施されたのは県の事業で、平成15年に第1号が長崎県生月沖に設置されました。山の長さは100m程度、高さは10m程度で水深100m程度の海底に設置されました。設置後の調査により栄養塩、プランクトンの増加が調査により確認されています。また、砂底に沈設されたブロックは岩礁性の魚礁効果も期待されています。
 簡単に説明してしまいましたが、方形ブロックを船から投入して水深100mの狙った位置に壊さずに山状に積み上げるには難しい技術が必要です。また大量の山脈用の資材を必要としますので、調達や、輸送方法、立地条件などの問題をクリアしなければなりませんでしたので、実現の裏には大変な努力があったのだと思います。


人工海底山脈のイメージ

4 今後の課題
 広大な外洋を生産の場として利用する事業には大きな期待が寄せられますが、沖合漁場整備はまだ黎明期であり課題も多く残っています。
 人工海底山脈が発生させる湧昇流は補償深度まで上昇して初めて機能しますが、補償深度は海底の水深とは無関係で海水の吸光性質に依存します。海域特性にもよりますが、深くて40~50m程度と思われます。
 第1号の人工海底山脈が設置された長崎沖の海底は水深100m程度であったため、補償深度まで湧昇することができました。しかし、排他的経済水域(EEZ)の海域はほとんどが100m以深であるため、山の形状や高さを変えるなど湧昇流を補償深度まで上げる工夫が必要となります。
 もう一つの問題は利用上の課題です。
 排他的経済水域(EEZ)全域を整備の対象と考える場合、利用する漁業者の安全の確保、沖合いと市場を結ぶ輸送ルートの確保、資源管理などの課題もあります。一方、国境近くで漁獲された水産物は逆に周辺の国に直接水揚げする事も考えられます。
 安全安心な漁獲物が日本国内だけでなく、外国の食生活に貢献できると良いですね。

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